「ウチには何もない」なんてことはありません。地域の中小企業が「憧れのブランド」に変わった3つの物語

- 「ブランディングなんて、お金のある大きな会社がやることでしょう?」
- 「ウチは地味な下請けだし、自慢できるような特別な技術も商品もないから……」
経営者として日々を懸命に過ごしていると、つい他社の華やかな成功が眩しく見えて、自分の足元にある「宝物」を見落としてしまいがちです。
この記事では、かつては「普通の会社」や「むしろ存続の危機にもあった会社」が、いかにして独自のブランドを築いたのか、3つの感動的な物語をご紹介します。読み終わる頃には、あなたの会社の中にも眠っている「輝きの種」に、きっと気づいていただけるはずです。
目次
1.「非効率」という名の誇り —— 木村石鹸、100年目の原点回帰

参照:木村石鹸 公式サイト/本店オンラインストア
最初にご紹介するのは、大阪にある「木村石鹸(きむらせっけん)」さんの事例です。
1.1 効率の果てに見つけた「逆転」のスイッチ
かつてITベンチャーを経営していた4代目・木村祥一郎さんにとって、家業の木村石鹸は「ダサい町工場」でしかなかったそうです。また2013年に家業へ戻った時は、主力のOEM(受託製造)も大変厳しい状況にあったそうです。
しかし、敬遠していた家業に飛び込んで初めて、「正直なものづくり」の信念に共鳴したといいます。
そこで木村社長は、IT企業で培った経営戦略と、手間ひまかける丁寧なものづくりを融合させた事業の一つとして、現在いる職人の誰もつくったことのない「固形石鹸」をゼロから開発し、新たなブランド創出に取り組まれました。
1.2 創業100周年の目玉:「固形石鹸」の復活
木村石鹸さんでは、もともと固形石鹸を作られていましたが、いつのまにか固形石鹸の製造は途絶えており、どうやってつくっていたのかもわからない。製法のマニュアルなど何も残っていないし、先代のお父様も処方を知らなかったそうです。
「石鹸屋なのに、伝統的な固形石鹸のつくり方を知らないのはどうなんだろう」
と考えました。そして、2024年に創業100周年を迎えるタイミングで石鹸屋としての原点に立ち返ろうと、伝統的な製法を活かした固形石鹸の企画をスタートしました。
1.3 非効率な伝統の価値をブランドの核に据える
今の時代、大きな機械を使えばもっと速く、安く石鹸を作ることは可能です。 しかし、木村社長はあえて、この手間のかかる「非効率」な製法を、ブランドの核に据える決断をしました。 なぜなら、その手間暇こそが、化学的な数値だけでは測れない「人の肌への優しさ」や「職人の誠実さ」を生み出していたからです。
1.4 誇りの再生
7年の歳月を経て、固形石鹸は完成しました。そしてものづくりの裏側を正直に発信されました。「この石鹸は、作るのにこんなに時間がかかります」「でも、だからこそこんなに優しいんです」という物語を、丁寧に伝えたのです。
その結果、「木村石鹸の考え方に共感する」というファンが全国に広がり、自社ブランド「木村石鹸の木村石鹸」は大ヒットしました。 自分たちの信念を貫くことで「ブランディング 成功」を手に入れたのです。
また、この挑戦を支えるため、組織のルールも根底から覆しました。 かつてあった「言ったもん負け」という閉塞感を打破するため、「経営者は責任をとるもの、社員は責任を果たすもの」と定義し、失敗へのペナルティを撤廃。さらに、社員が自らの給与額を提案する「自己申告型給与制度」や、能力よりも「性格のよさ」を重視する採用を導入。「会社はプロジェクトではなくコミュニティ」と捉え直し、正解のない開発に耐えうる「人間くさいチーム」を作り上げました。
「非効率だ」と感じていることの中にも、お客様が求めている「本質的な価値」が隠れていること、信念を持ち続けること、仕組みを大胆に変えていくこと、を教えてくれるブランディング 成功事例です。
1.5 気付き
多くの会社が「効率化」を追い求める中で、私たちがハッとしたのは
「効率の悪さこそが、お客様にとっての安心感に変わる」
という逆転の発想です。
職人さんが五感を使って石鹸を煮込む姿は、言葉以上に「私たちは嘘をつかない」という強烈なメッセージになっています。自社の「手間がかかりすぎている部分」は、実は削るべき無駄ではなく、真っ先に語るべき「ブランドストーリー」なのかもしれません。
1.6 参考文献
木村石鹸
幻の固形石鹸を7年かけて"復活"させた石鹸屋の意地。「非効率なのになぜ?」4代目社長の答えは...... | OTEMOTO[オ・テモト]
創業100年、木村石鹸が大事にしている「心の使い方」
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2.「隠したい道具」を「見せたい主役」に——平安伸銅工業
参照:平安伸銅工業
次にご紹介するのは、突っ張り棒の国内シェアトップを誇る「平安伸銅工業(へいあんしんどうこうぎょう)」さんです。
2.1 どこにでもある商品を「憧れのアイテム」へ
平安伸銅工業の創業者である笹井達二氏は、アメリカでカーテンポールとして使われていた製品をヒントに、日本独自の住宅事情に合わせた「突っ張り棒」を開発しました。1975年に日本で初めて商品化されると、押し入れなどのデッドスペースを有効活用できる便利な収納アイテムとして大ヒットしました。
しかし、1990年代以降は競合他社が乱立し、激しい価格競争に巻き込まれます。その結果、売り上げはピーク時の48億円から14億円まで落ち込み、経営危機に陥りました。
この危機的な状況下に、創業者の孫にあたる竹内香予子さんが2010年に家業に戻り、2015年に3代目社長に就任しました。
竹内社長は、この危機を脱するために、組織改革と新製品開発に取り組みました。
具体的は、突っ張り棒を単なる「便利アイテム」ではなく、「私らしい暮らし」を実現するためのインテリアアイテムとして再定義することに挑戦しました。
2.2 新たな「ブランド」の創出
新たにデザイナーさんも招き入れ、商品の色をシックな黒や真鍮(しんちゅう)風に変え、木材と組み合わせられるようなデザインに仕上げました。
単なる棒を売るのではなく、「自分らしい暮らしを作る楽しさ」という体験を売ることにしたのです。さまざまな試行を繰り返し、用途に応じたブランド化に取り組まれました。
結果、
- 建築資材としての利用を可能にするDIYパーツブランド「LABRICO(ラブリコ)」
- 「一本の線」として見せる収納を提案するデザイナーズブランド「DRAW A LINE(ドローアライン)」
- デザイン・イノベーション・ファームTakramとのコラボレーションブランド「AIR SHELF(エアシェルフ)」
など次々と新しいブランドを生み出し、新たな市場を開拓されました。これにより、価格ではなく「この世界観が好きだから」という理由で選ばれるようになり、圧倒的な差別化事例となりました。
事業内容は大きく変えなくても、お客様がその商品を使って「どんな素敵な自分になれるか」を提示することで、市場の見え方を劇的に変えブランド化に成功した事例です。
2.3 現在も進化し続ける「つっぱり棒」
平安伸銅工業さんは、これらの取り組みによりV字回復を果たし、現在では「つっぱり棒博士」と呼ばれる竹内社長のもと、ユーザーの暮らしに寄り添う「暮らすがえ」をコンセプトに、研究と改良を重ねた製品開発を続けています。
例えば、突っ張り棒が落ちる原因を科学的に解明し、ネジの試作を100回以上繰り返すなどして、より落ちにくい製品を実現しています。
2.4 気付き
平安伸銅工業さんの取り組みを見て気づかされたのは、
「お客様は、商品そのものよりも、その商品を使った後の『自分の姿』を欲しがっている」
ということです。
新しいブランド(DRAW A LINE)は、突っ張り棒の性能ではなく「自分らしい空間がつくれる喜び」という価値(バリュー)を伝えています。
技術自慢に終始するのではなく、お客様の生活がどう「温度」を増すのか。その視点を持つだけで、言葉の響きは劇的に変わることを教えられます。
2.5 参考文献
平安伸銅工業
35歳女性社長が変えた「突っ張り棒」の常識 平安伸銅工業は、新需要をどう開拓したのか
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3. 「迷惑施設」を「地域の宝」に変えた物語——石坂産業
参照:石坂産業株式会社
最後にご紹介するのは、埼玉県にある産業廃棄物の中間処理を行っている「石坂産業(いしざかさんぎょう)」さんです。
3.1 絶体絶命の逆境から始まった挑戦
1990年代後半、所沢周辺のダイオキシン問題により、同社は地域住民から激しい反対運動を受け、存続の危機に瀕しました。そうした状況の中、2002年に当時30歳で社長に就任した石坂典子さんは、産業廃棄物処理という社会に不可欠ながらも敬遠されがちな業種に対するイメージの壁は、当時あまりにも高く厚いものだったと振り返っています。しかし、「地域に愛されない会社は存続できない」との考えから、抜本的な改革を断行しました。
逃げるのではなく「すべてをさらけ出す」という驚くべき行動に出ました。
「隠すから怪しまれる。徹底的にきれいにし、地域に貢献する場所になろう」と決意したのです。
3.2 「見せる化」が信頼というブランドを築く
石坂産業さんが取り組んだのは、工場の徹底的な清掃と、誰でも見学できるオープンな環境作りでした。 特に、これまでの屋外の作業場を、粉塵や騒音を防ぐため、屋内に収容しました。
さらに、不法投棄も多かった工場の周りの荒れ果てた里山を再生し、地域の人たちが遊びに来られる公園やオーガニック農園、さらには神社まで作ったのです。
その結果、今では世界中から年間数万人もの見学者が訪れる「環境教育の聖地」のような存在になりました。
かつての「迷惑施設」は、今や「地域に誇れる環境企業」へとイメージを完全に変えたのです。
これは、自社の「在り方」を正しく整え、それを誠実に発信し続ければ、必ず人は見ていてくれるというデザイン経営事例の象徴的なお話だと思います。
3.3 気付き
私たちが最も感銘を受けたのは、
「隠したいことほど、さらけ出すことで最大の武器になる」という事実です。工場のすべてを公開し、里山を再生させた石坂社長の行動は、地域の方々との間に「言葉を超えた信頼」を築きました。
自社の「弱み」だと思っている部分にこそ、誠実に向き合うことで、他社には決して真似できない「ミッション(存在意義)」が眠っていることを教えてくれています。
3.4 参考文献
石坂産業
【第1回】リッツ・カールトンをしのぐ“石坂ミスティーク”!高野登が石坂産業で受けた「270度」の衝撃高野登×石坂典子対談【前篇】
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4. 成功事例に共通する「共通点」
ここまで3つの物語を一緒に見てきました。どの事例も、決して「楽な道」ではなかったことは読者の皆様も共感されるのではないでしょうか。むしろ、血のにじむような努力の連続だったことを感じます。そんな姿から、私たちがこれからのヒントとして受け取れることがあります。
4.1 今ある強み(伝統、技術、環境)を、お客様の喜び、社会貢献として定義
- 「肌ざわり、質感が良い」という強みをお客様が求める石鹸へと磨き上げる
- 従来からある製品をお客様の想像力を活かし生活の質を改善する新しい突っ張り棒へ進化させる
- 資源の循環という、地球に優しい産業としての価値を地域社会に再認識してもらう
といったように、お客様の喜びに応えること、社会への貢献、という定義を掲げ、自社の伝統、技術、環境を磨いていく、本質的なブランディングへの取組みが成功の鍵を握っているように感じます。
こうした取組みこそが、ブランディング成功へのたった一つの近道なのではないでしょうか。

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5. 明日からできる「小さな一歩」:答えはお客様の中に
「でも、ウチには彼らのようなドラマチックな話はないし……」 そう思われるかもしれません。しかし、すべての会社に必ず「選ばれている理由」があると思います。
5.1 「なぜウチなんですか?」と聞いてみる
自分たちの魅力を見つけるために、一番確実で、しかも費用がかからない方法があります。
それは、今お付き合いのある大切なお客様に、ぜひこう尋ねてみてください。
「数ある会社の中で、どうして私たちを選んでくださっているんですか?」
お客様からいただく応えの中に、あなた自身も気づいていなかった「ブランドの核」が隠されています。
「近いから」という理由も、深く掘り下げてみると「困ったときにすぐに来てくれる安心感」かもしれません。
「安いから」という理由も、実は「無駄なコストを削り、適正な価格で誠実に対応してくれる信頼感」に繋がっているかもしれません。
5.2 「ありがとう」の声を書き留める
お客様が心から喜んでくださった瞬間、かけてくださった感謝の言葉。それこそが、大切なブランディングの素材になります。現場で生まれる「ありがとう」の中にこそ、御社の未来のブランドを築くためのヒントがたくさん詰まっているのです。
私たちカズミアは、そんな「お客様の声」を一つひとつ丁寧に拾い上げ、御社らしい言葉やデザインとしてお届けするお手伝いをさせていただきます。
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6. まとめ:次は、あなたの会社の番です
ブランディングは、決して遠い世界の特別なことではありません。
今、あなたがお持ちのものを大切に思い、それを「正直に、心を込めて伝える」ための、一歩一歩の活動の積み重ねだと私たちは感じています。
今回ご紹介した物語も、きっと一人の経営者の「もっと良くしたい」「お客様に正直でありたい」という純粋な気持ちから始まったのではないでしょうか。
あなたの会社の中にも、きっと「憧れのブランド」へと育つ可能性の種が眠っていると、私たちカズミアは信じています。
その種を、私たちと一緒に見つけ、大切に育てていくお手伝いをさせていただけませんか?
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